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~前回~ぷちコラム② 高齢者住宅・施設に関する世間のイメージ
本日は久しぶりのぷちコラムを書きます。
ご相談の際や施設でお話を伺っているとよく『胃ろう』というワードが出てきます。この施設は胃ろう対応可能といった情報が仕事上大切になりますが、そもそも胃ろうというものがどういったものなのかを考えてみたいと思います。
胃ろうについては以下の書籍で勉強させて頂きました。すごく実務的でとても参考になりました。
胃ろうという選択、しない選択 「平穏死」から考える胃ろうの功と罪
- 著: 長尾 和宏
- 出版社: セブン&アイ出版
- 発売日: 2012/12/03
- 定価: ¥1,575
- ジャンル: Book
- メディア: 単行本
- Amazon.co.jpで詳細を見る
老衰、認知症終末期、どう生きる?口から食べられなくなった時、病院で求められる「胃ろう」という提案に、あなたと家族はどう答えるべきか?胃ろうは「過剰な延命措置」か? 500人を在宅で看取った現役医師による「胃ろう」一般書。
●今「胃ろう」の何が問題か?
●病院はなぜ、胃ろうをすすめるのか?
●「ハッピーな胃ろう」「アンハッピーな胃ろう」とは?
●胃ろう生活Q&A 手術、費用、造設後の生活は?
●「胃ろうのすすめ」をことわりたいときは?
<胃ろうとは>
種々の病気で、口から食べられなくなった時、嚥下機能が落ちてきた人の胃に小さな孔(あな)を開けて行う、管を通しての人工栄養法です。
人工栄養法:投与のルートは、血管(①経静脈栄養)と胃腸(②経腸栄養)との2種類があります。
①経静脈栄養
点滴や輸液を直接血管に栄養をいれます。腕などの抹消静脈に点滴注射で入れる抹消静脈栄養、鎖骨下から中心静脈にカテーテルを埋め込み高カロリーの輸液を入れるIVH、お腹や太ももから皮下に点滴を入れる皮下輸液がありあます。
②経腸栄養
管を通し、胃に栄養をいれます。鼻からチューブを通して医に栄養剤を注入する経鼻経管栄養や、お腹の皮膚から胃壁に内視鏡で孔を開け管を通す胃ろう、口から食道にチューブを入れ、流動食を注入する間欠的口腔食道栄養法があります。
<私が持っていた胃ろうのイメージ>
本書を読む前は、私は胃ろうについて以下のようなイメージを持っていました。
①胃ろうは嚥下機能が低下して自分で食事を摂れなくなった方が直接胃に栄養を入れるための方法。
②認知症末期の方が寝たきりの方が利用している。
③一度胃ろうになると口から食事できるように回復するのは難しい。
④欧米では胃ろうというものはほとんど行われていない。
⑤本人やご家族でも胃ろうを望まないという方が増えている。
しかし色々胃ろうについて勉強していくと、誤認していると気づかされることが多くありました。
本書から学んだのは以下の事項です。
胃ろうの目的は、全身状態が改善し、QOL(生活の質)の向上することが目的ということです。そしてリハビリ次第では再び口から食べることもできるようになります。(胃ろうをしていてもそもそも口からの食事の併用は可能)しかし、実際は急性期病院から次の病院や介護施設に移るために胃ろうが必要となるケースも多いようです。理由は胃ろうを作っておけば、栄養補給路が確保されるため生命の危機が一時回避でき、在宅療養や介護施設への移行がスムーズと判断されるからだそうです。また、リハビリについても、嚥下リハビリの専門家である言語聴覚士の数は少なく、脳梗塞などでの麻痺が回復しているのにもかかわらず、適切な嚥下リハビリを受けないまま、入れっぱなしになっている胃ろうがたくさんあるのが現実ということです。
<ハッピーな胃ろう・アンハッピーな胃ろう>
ハッピーな胃ろう、アンハッピーな胃ろうとは、本書で使用されている言葉です。胃ろうの難しさについてはこれらの言葉によって説明されています。
①ハッピーな胃ろう
生きて楽しむための胃ろう。胃ろうで食べられるようになる、元気になる、褥瘡が治る、本人も家族も笑顔になる。
②アンハッピーな胃ろう
老衰や認知症の終末期に寝たきり、あるいは限りなく植物状態に近い状態での延命措置(本人が望んでいない)。
●難しいところ
胃ろうという選択をして、1~3年の「ハッピーな胃ろう」を過ごしても、終末期には「アンハッピーな胃ろう」へと移る時期が来るということです。ハッピーな胃ろうを選択してもそのような事態に直面するということが胃ろうの難しいところです。いったん開始した人工栄養はという延命装置は、ご本人やご家族が中止したいと願っても病院や施設での中止は現実的に困難です。中止に関する法整備がない日本では中止はいまだにグレーゾーンということです。
※2012年6月、胃ろうを含む「高齢者の接触嚥下障害に対するガイドライン~人工的水分・栄養補給を中心として」と題された日本老年医学会の終末期における意思決定プロセスとして、厚生労働省や日本老年医学会のガイドラインを満たせば「撤退もあり得る」という見解が表明されました。これは画期的な見解ではありましたが、法的にはまだまだグレーゾーンということです。
●3つの選択肢
胃ろうについて3つの選択肢が考えられます。
1.胃ろうをしない選択(自然死、平穏死→食べられなくなることが人間の寿命という考え)
2.「ハッピーな胃ろう」だけを選択(いずれは中止して平穏死)
3.「アンハッピーな胃ろう」になっても最期まで選択(現実的に一番多い)
<自身・身内だったらどうするか>
本書でも触れられていますが、延命措置に関する見解は、自分自身と家族では考えが異なる傾向にあると解説されています。
私も同じような考えでした。私自身は胃ろうはしないで欲しいと思っています。私は食べられなくなった=寿命という考えがあるからです。しかし一方で、もし家族で本人の意思がわからなかったときにどうするかと考えると、胃ろうをするという選択肢を選ぶと思います。回復することに希望を持ったり、面倒をみたいというエゴのようなものかもしれません。
あらかじめできる準備としては、自分の意思というのを明確にしておくことです。エンディングノートに記載したり、日本尊厳死協会に入り「尊厳死の宣誓書」に署名し、リビング・ウィル(Living Will)を表明するといいった方法があります。
<まとめ>
胃ろうについては、本書では「胃ろうは、人工栄養の道具にすぎない」と書かれており、その道具をどう使うかは各自が判断することと書かれています。死生観などはそれぞれですし、その通りだと思いますが、多くの方が胃ろうについてしっかりとした知識を得ていないというのが、自分も含めて実態だと思います。道具を使うにしてもそれがどういったものかわからなくては使いようがありませんので、しっかりと理解が必要です。
本書はとても客観的な立場から書かれており、実務的でとても勉強になる本です。是非多くの人に読んでほしいと思い、今回ご紹介させていただきました。
ご不明点や詳細については、お気軽に高齢者住宅仲介センター日本橋店にお問い合わせください。
(担当:満田(ミツダ) 03‐5201‐3645)
次回はぷちコラム④高齢者住宅・施設入居にあたっての準備(荷物整理処分・断捨離)です。
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