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2014年10月11日付の日経新聞に次のような記事が載りました。
75歳以上の保険料上げ 高齢者医療、170万人の負担増
内容は、厚生労働省が2016年度を目途に、75歳以上の約170万人を対象に保険料の優遇措置を廃止し、低所得者向けの軽減措置も段階的に縮小する検討に入った、というものです。また、現役世代の高所得者の保険料を引き上げることも併せて検討されています。
今回の改正案は「15日に開く厚労省の審議会で提案し、来年の通常国会に提出する関連法の改正案に盛り込むことを目指す」とのことです。
保険料の軽減措置については高齢者医療制度について(4)保険料の軽減措置で簡単に触れていますが、その内容をおさらいしてみましょう。
<75歳以上の保険料の改正について>
1.後期高齢者医療制度の保険料
後期高齢者医療制度の保険料は、次のようになっています。「均等割額」は加入者全員に均一にかかる金額です。
「所得割額」は所得に応じてかかる金額です。所得割額は、(総所得金額-33万円)×所得割率と計算されます。
所得割額は上限57万円とされます(従来は55万円でしたが、平成26年度から57万円になりました)。
均等割額と所得割額は都道府県によって異なる数値が設定されています。具体的には厚生労働省のHPから見られる次の資料をご参照ください。
後期高齢者医療制度の平成24・25年度の保険料率等
後期高齢者医療制度の平成26・27年度の保険料率等
たとえば、平成26年度の保険料について、東京都の場合は均等割額42,200円・所得割率8.98%、大阪府の場合・均等割額52,607円で所得割率10.41%、沖縄県の場合は均等割額48,440円・所得割率8.80%です。
この表によれば平成26年度の保険料が一番安いのは、均等割額35,300円所得割率7.15%のの新潟県でしょう。
逆に一番高いのは、均等割額56,584円所得割率11.57%の福岡県です。
2.後期高齢者医療制度の保険料の軽減措置
所得の低い方については、均等割額と所得割額それぞれに軽減措置の制度が設けられています。また、サラリーマン等の扶養家族については資格取得日から2年間について保険料の軽減がはかられています。
今回改正が検討されているのはこの軽減措置についてですが、まずはその内容を確認してみましょう。
(1)均等割額
(a)原則
軽減率 | 世帯の総所得金額 |
---|---|
7割軽減 | 33万円以下 |
5割軽減 | 33万円+24.5万円×被保険者数(世帯主を除く)以下 |
3割軽減 | 33万円+35万円×被保険者数 以下 |
総所得金額は、年金収入から公的年金控除を差引いた金額です。詳細は年金給付と税金をご参照ください。
たとえば75歳以上のご夫婦である場合、
総所得金額が33万円以下であれば7割軽減、
総所得金額が33万円+24.5万円×1人=57.5万円以下であれば5割軽減、
総所得金額が33万円+35万円×2人=105万円以下であれば3割軽減となります。
ただし、この軽減率は原則的で、平成26年度の軽減率は特例措置により異なります。
(b)現行の軽減措置
現行は、特例措置により、7割軽減についてさらなる軽減がはかられています。
軽減率 | 世帯の総所得金額 | 追加要件 |
---|---|---|
9割軽減 | 33万円以下 | 被保険者全員が年金収入80万円以下で、他の所得がない |
8.5割軽減 | - | |
5割軽減 | (1)と同じ | - |
3割軽減 | (1)と同じ | - |
(2)所得割額
「賦課のもととなる所得金額」が58万円以下の方は、所得割額が一律5割軽減となります。
「賦課のもととなる所得金額」とは、総所得金額等から33万円を控除した額のことです。
所得が年金収入のみの方の場合は、「賦課のもととなる所得金額」が211万円以下のときに、所得割額が5割軽減となります。
所得割額については特例措置はなく、現行制度でもこの軽減率となります。
(3)被用者保険の被扶養者だった方への特例措置
被用者とはサラリーマン等のことです。ここでいう被用者保険は健康保険等を指しています。つまり、被扶養者について保険料負担が発生しない医療保険です。
後期高齢者医療制度に加入される前日まで、健康保険や共済組合の被扶養者であった方は、急激な負担増とならないよう、以下のような軽減措置がはかられています。
(a)原則
後期高齢者医療制度の被保険者となってから2年間は、所得割額0円、均等割額5割軽減とされます。
(b)平成21年4月以降の特例措置
平成21年4月以降については、特例措置により、所得割額0円、均等割額9割軽減とされ、平成26年度も継続適用されています。
3.75歳以上の保険料の改正案
上記を踏まえて、改正案の内容を確認してみましょう。(1)9割軽減措置の廃止
2(3)(b)の均等額の軽減について、特例措置の延長をやめるという内容です。
負担があるのは75歳以上の親を養うサラリーマン世帯で、自営業の方は軽減措置がないので影響はありません。
「後期高齢者医療制度の平成26・27年度の保険料率等」によれば均等割額の全国平均は約45,000円です。75歳~76歳の2年間について軽減額が9割⇒5割となるので、影響額は1年につき約18,000円、月額で約1,500円となります。
(2)収入が少ない高齢者に対する特例の縮小
2(1)(b)の均等割額の「9割軽減」「8.5割軽減」について、「7割軽減」に戻すという内容です。
ここでも均等割額の全国平均約45,000円を基準として影響額を計算してみます。
「9割軽減」の場合、影響額は1年につき約9,000円、月額で約750円です。
「8.5割軽減」の場合、影響額は1年につき約6,750円、月額で約562円です。
(3)現役世代での高所得者の保険料の引き上げ
給与が月ベースで140万円や150万円という高所得者が対象の話です。今回は説明を省略します。
4.まとめ
以上をまとめると次のようになります。サラリーマン等の被扶養者だった人 | 被扶養者だった人以外 | ||
---|---|---|---|
現行 | 所得割 | ゼロ | 一定の所得基準に該当する場合に、 5割軽減 |
均等割 | 9割軽減 | 一定の所得基準に該当する場合に、 9割軽減、8.5割軽減、5割軽減、3割軽減 | |
改正案 | 所得割 | 一定の所得基準に該当する場合に、 5割軽減 (最初の2年だけゼロ) |
一定の所得基準に該当する場合に、 5割軽減 |
均等割 | 一定の所得基準に該当する場合に、 7割軽減、5割軽減、3割軽減 (最初の2年だけ5割軽減) |
一定の所得基準に該当する場合に、 7割軽減、5割軽減、3割軽減 |
確かにこの改正案の影響で一部の高齢者の方のご家庭では保険料が上がってしまいますが、そもそも被扶養者の9割軽減については現行制度が不公平といえる部分もあります。
国民それぞれが不満に感じることをいかにして軽減していくか、じっくり考えていくべき問題だと思います。