このテーマは高齢者の方に関連する医療保険制度についての記事です。
前回はこちら⇒高齢者医療制度について(7)公的医療保険の種類
今回は健康保険の適用事務所を退職した際の選択肢の一つである「任意継続被保険者」について解説します。
この制度は高齢者の方だけが対象の制度ではなく、後期高齢者医療制度の被保険者の方は対象とはなりませんが、健康保険の被保険者であればもしものときに役立つ知識だと思います。
<任意継続被保険者>
1.任意継続被保険者とは?
任意継続被保険者とは、健康保険の適用事業所を退職し、被保険者資格を喪失した場合に、個人で任意に健康保険の資格を継続する制度です。任意継続できる期間は最長で2年間となります。
なお、この制度は船員保険や後期高齢者医療制度の被保険者は対象ではありません。
(船員任意継続被保険者、疾病任意継続被保険者という区分もありますが、ここでは省略します)
2.国保か任意継続か?
任意継続を適用しない場合、国民健康保険の適用対象となります(再就職するまでは、ですが)。
医療費の3割負担は変わりませんので、多くの関心は「国民健康保険と任意継続被保険者の保険料、どちらが得か?」ということであるかと思います。
大雑把に比較すると、
任意継続被保険者の保険料は、報酬と賞与を基礎として計算されます。また、会社負担部分がなくなるので働いていた時の2倍になります。
一方、国民健康保険の保険料は、所得や資産を基礎として計算されます。ただし計算方法は所属する自治体によって異なります。また、国民健康保険には扶養の概念がありません。保険料を負担するのは「世帯」となります。
これらの比較計算をするのは簡単ではありませんが、この記事ではその概要を解説いたします。
その前に、まず任意継続被保険者の適用の要件について確認してみましょう。
3.任意継続の適用要件
任意継続を適用する要件は以下のようになります。
被保険者資格を失くした理由 | ・健康保険の適用事業所を退職 ・健康保険の適用除外事由に該当 (臨時的事業に使用される場合など) |
働いていた期間 | 退職日まで継続して2か月以上その事業所で働いていた。 |
申し出の期限 | 退職日の翌日から20日以内に、保険者に任意継続被保険者となることを申し出る。 |
4.任意継続被保険者の資格を喪失する場合
以下の要件に該当する場合は、被保険者の資格を失います。
事由 |
①亡くなった ②任意継続被保険者となった日から2年を経過した ③保険料を納付期日までに納付しなかった ④健康保険が適用される事業所に再就職した ⑤船員保険、後期高齢者医療制度の被保険者となった |
③に書いてある通り、任意継続被保険者の場合、保険料を滞納するとただちに被保険者の資格を失います。これは任意継続の制度の適用を受けることが被保険者の意思に基づくものであるため、納付を怠るようではその意思がないとみなされるためです。
5.任意継続被保険者の保険料
任意継続被保険者の保険料は、退職前の「標準報酬月額」に保険料率を乗じることで算定されます。介護保険の第2号被保険者(40~64歳の方)の場合、さらに介護保険料が上乗せされます。
「標準報酬月額」は、要するに月給です。この定義は正確なものではありませんが、ここではその説明を割愛します。
任意継続被保険者の場合、以下のうちいずれか少ない方が標準報酬月額となり、それに基づいて保険料が算定されます。
①退職したときの標準報酬月額 ②協会けんぽの場合、28万円 健康保険組合の場合、規約で定めた額 |
実際の保険料がいくらになるかは、いろいろと計算してみるよりも給与明細を見たほうが早いと思います。
まず給与明細(賞与があれば賞与の明細も)に記載された保険料額を合算します。この保険料は半分を会社が負担してくれた残額なので、任意継続被保険者の保険料を算定する場合は、この合算額を2倍します。これが任意継続被保険者の保険料額となります。
6.任意継続被保険者の保険給付
基本的には健康保険と同じですが、相違点として、傷病手当金と出産手当金が支給されません。
ただし、資格喪失前からこれらの手当てを支給されている人には、継続して支給されます。
7.国民健康保険の保険料
国民健康保険の保険料の計算方法は市町村ごとに異なります。正しい金額を知りたい場合は、各市区町村の担当窓口に問い合わせるのが確実でしょう。
ここでは実際どのような計算方法があるのかについてご紹介します。
国民健康保険の保険料は以下の4つにより算定されます。
①所得割・・・世帯の所得に応じて計算
②資産割・・・世帯の資産に応じて計算
③均等割・・・世帯の加入者数に応じて計算
④平等割・・・一世帯辺りの額
①所得割の計算には(i)所得比例方式と(ii)住民税方式があります。
(i)所得比例方式は、(前年の総所得金額-基礎控除額(33万円))×保険料率 で計算されます。
(ii)住民税方式は、採用する自治体は少ないですが東京23区、横浜市、名古屋市など大都市圏を中心に採用されています。
②資産割は 加入者全員の土地と家屋の固定資産税×資産割率 で計算されます。
健康保険にはない部分なので、資産割のある市町村にお住まいの方の保険料は格差が生じる可能性があるということになります。
③均等割は 世帯の被保険者数×年額 で計算されます。
国民健康保険には扶養の概念がなく、世帯単位での計算となります。扶養家族があっても保険料は変わらない健康保険と比べると、これも格差があるといえるでしょう。
④平等割は世帯ごとに賦課される金額です。所得の金額や加入者人数などは影響しません。
以上です。
迷った場合はとりあえず任意継続を選択するのが無難ですが、厳密な比較がしたい場合は、これら条件をふまえて検討すると良いでしょう。