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高齢者医療制度について(6)高額療養費制度③70歳以上の高額療養費

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今回は高額療養費制度のうち70歳以上の場合について解説します。
前回⇒(6)高額療養費制度②70歳未満の高額療養費

本来医療費は高額なものですが健康保険等に入っていれば原則3割負担、70歳以上であれば原則2割負担となります。この2割~3割負担部分が被保険者の「自己負担額」です。しかし2~3割負担にしてもなお医療費が高額になることもあります。そのようなときのための制度がこの高額療養費制度です。

<70歳以上の高額療養費>
1.支給要件
70歳以上の高額療養費は、一部負担金等の額が自己負担限度額(高額療養費算定基準額)を超える場合に、その超える額が支給されます。

2.支給対象
70歳以上の高額療養費の場合も、70歳未満の高額療養費と同様に以下のような要件があります。

・保険給付のうち、入院時食事療養費、入院時生活療養費は対象とならない。
・特別室の料金、先進医療の先進技術等、保険にかからない負担分は除かれる。

ただし、70歳未満の場合と異なり、「21,000円以上のものに限る」という要件はありません。

3.計算手順
70歳未満の高額療養費と異なり、まず個人単位で外来診療に係る限度額が適用されます。次に、世帯単位で残る自己負担額を合算した額について、世帯単位の限度額が適用される、という手順を踏みます。
なお、ここまでは70歳以上75歳未満の分についての手順です。
70歳未満の家族がいる場合は、上記の世帯単位の限度額を適用後、さらに残る自己負担額を世帯単位で合算し、70歳未満の自己負担限度額を適用して高額療養費を算定します。

また、75歳以上の高額療養費の場合は、健康保険ではなく後期高齢者医療制度から支給されるので、75歳未満の自己負担額との合算はできません。75歳以上同士であれば合算することができます。

4.外来療養に係る70歳以上の自己負担限度額(高額療養費算定基準額)
用語としては「高額療養費算定基準額」のほうが正確ですが、自己負担限度額のほうがわかりやすいのでこの記事では全て自己負担限度額と記載します。

70歳以上の高額療養費の場合、まず個人単位で外来療養に係る個人単位の限度額を適用しますが、
外来療養に係る70歳以上の自己負担限度額は次の表のようになります。

所得自己負担限度額
①標準報酬月額
28万円以上
44,400円
②標準報酬月額
26万円以下
24,600円
③低所得者Ⅱ35,400円
③低所得者Ⅰ

【用語の解説】
・標準報酬月額
標準報酬月額は健康保険における保険料の額や保険給付の額の計算基礎となるものです。通常は4月~6月に支払われた報酬の平均額を基礎として決定されます(平均額がそのまま標準報酬月額となるわけではありません)
現時点(2014年3月時点)での標準報酬月額等級表では上記の平均額が250,000円~270,000円の人は標準報酬月額260,000円となります。

・低所得者Ⅱ
市区町村民税の非課税者等です。所得が少ないので自己負担限度額も少額になります。

・低所得者Ⅰ
その年度分の総所得金額頭がない被保険者等です。ここでは低所得者Ⅱとの差はありませんが、世帯合算の際の自己負担限度額はさらに少額となります。

4.入院療養等に係る70歳以上の自己負担限度額(高額療養費算定基準額)
外来療養に係る自己負担限度額を適用後、自己負担額に残額がある場合、これに入院療養に係る自己負担額を加えた70歳以上の療養に係る自己負担額を世帯合算し、この合算額に自己負担限度額を適用します。
所得自己負担限度額多数回該当
①標準報酬月額
28万円以上
80,100円+(療養費用-267,000円)×1%44,400円
②標準報酬月額
26万円以下
62,100円
③低所得者Ⅱ24,600円-
③低所得者Ⅰ15,000円-

標準報酬月額28万円以上の人は、70歳未満の一般所得者の自己負担限度額と同じになります。

【用語の解説】
・多数回該当
過去12ヶ月以内に既に高額療養費が支給されている月数が3ヶ月以上ある場合は、4か月目から「多数回該当」となり、この場合は表の一番右の金額が自己負担限度額となります。

・療養費用
被保険者負担額2割~3割を計算する前の本来の療養費用です。
たとえば2割負担の被保険者の負担額が300,000円の場合、療養費用は1,500,000円となります。


ここまでを具体例で確認してみましょう。
【事例】
70歳以上の被保険者M(標準報酬月額26万円)さん(被扶養者N・S、父と同居)について、以下の医療費が発生した場合
患者年齢診療形態自己負担額
被保険者M73歳外来40,000円
入院60,000円
被扶養者N71歳入院18,000円
被扶養者S30歳外来30,000円
入院18,000円
被保険者Mの父100歳入院210,000円

なお多数回該当はないものとします。
Mさん世帯はこの月だけで4人の入院者を出してしまいました。高額療養費の制度がなく単純に計算すると376,000円の負担となってしまいますが・・・。

①後期高齢者医療制度の分
Mさんのお父さんは100歳です。ご長寿ですね。
このお父さんの場合、75歳以上であることから後期高齢者医療制度の被保険者なので、健康保険の被保険者であるMさんの被扶養者とはなりません。
したがって、高額療養費は別計算となります。

お父さんは低所得者Ⅰに該当することとしましょう。
この場合、自己負担限度額は15,000円なので、高額療養費は210,000円-15,000円=195,000円となります。

②70歳以上の外来療養費
ここからは健康保険の計算です。
70歳以上75歳未満の外来療養費はMさんの40,000円だけなので、これに自己負担限度額を適用します。

標準報酬月額26万円の場合の外来療養に係る自己負担限度額は24,600円なので、高額療養費は40,000円-24,600円=15,400円となります。
この場合、Mさんの負担は24,600円となりますが、これは次の③の計算に繰り越します。

③70歳以上の入院療養費等
Mさんの世帯では70歳以上75歳未満に該当するのはMさんとNさんです。
この2人の自己負担額を合算し、自己負担限度額を適用します。

まず、自己負担額の世帯合算額は次のようになります。
24,600円(Mさん外来)+60,000円(Mさん入院)+18,000円(Nさん入院)=102,600円

なお、70歳未満の高額療養費の場合は21,000円未満のものは合算対象となりませんが、70歳以上の高額療養費の場合はそのような縛りはありません。

次に自己負担限度額の適用です。
標準報酬月額26万円の場合の入院療養等に係る自己負担限度額は62,100円なので、高額療養費は102,600円-62,100円=40,500円となります。

④70歳未満と70歳以上が混在する場合の高額療養費
Mさんの世帯では70歳未満のSさんがいます。

まず、自己負担額の世帯合算額は次のようになります。
62,100円(MさんとNさんの残額)+30,000円(Sさん外来)=92,100円

70歳未満の場合、世帯合算されるのは21,000円以上のものに限られます。したがって18,000円の入院費は合算されません。

次に自己負担限度額の計算です。標準報酬26万円の場合の自己負担限度額は次のように計算されます。
療養費用は92,100円÷20%=460,500円とします。
80,100円+(療養費用×1%)=80,100円+4,605円=84,705円

これを世帯合算額に適用し、高額療養費を計算すると次のようになります。
92,100円-84,705円=7,395円

⑤合計
ここまでの計算結果を合計してみましょう。
195,000円+15,400円+40,500円+7,395円=258,295円

これがMさんの世帯に支給される高額療養費となります。

5.支給方法
原則は「現金支給方式」、つまり一度病院等に自己負担額を支払った後、申請により高額療養費を支給してもらうこととされます。
しかし、予め所得区分について保険者の認定を受けている場合、「現物給付方式」、つまり窓口での支払いを自己負担限度額にとどめることにより支給されることも可能です。
70~74歳の人は高齢受給者証、75歳以上の人は後期高齢者医療保険者証を窓口で提示することで、自動的に高額療養費の現物給付が行われます。

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