今回は高額療養費制度のうち70歳未満の場合について解説します。
前回の医療保険関係の記事はこちら⇒高齢者医療制度について(6)高額療養費制度①概要
本来医療費は高額なものですが健康保険等に入っていれば原則3割負担、70歳以上であれば原則2割負担となります。この2割~3割負担部分が被保険者の「自己負担額」です。しかし2~3割負担にしてもなお医療費が高額になることもあります。そのようなときのための制度がこの高額療養費制度です。
今回解説するのは70歳未満対象となる制度で、タイトルでは「高齢者医療制度について」と銘打っていますが高齢者の方に限った話ではなく、健康保険に入ってる若年者も対象となります。
<70歳未満の高額療養費>
1.支給要件
70歳未満の高額療養費は、一部負担金等の世帯合算額が自己負担限度額(高額療養費算定基準額)を超える場合に、その超える額が支給されます。
2.世帯合算
世帯合算額は、被保険者またはその被扶養者が、ある月に同じ病院、診療所、薬局その他(病院等)から受けた療養に係る一部負担金等を合算した額です。
ただし合算額には以下の要件があります。
・21,000円以上のものに限る。
・保険給付のうち、入院時食事療養費、入院時生活療養費は対象とならない。
・特別室の料金、先進医療の先進技術等、保険にかからない負担分は除かれる。
・同じ医療機関であっても、歯科とそれ以外の診療科は区別される。
・同じ医療機関であっても、入院診療と通院診療はそれぞれ区別される。
・共稼ぎの場合など夫婦ともに被保険者である場合は、合算されない。
具体例で確認してみましょう(内容は前回と同じものです)。
【事例】被保険者Mさんとその被扶養者Nさんが、A病院とB病院において以下のような診療を受けた場合。
右の「合算」欄に○がついているのが、合算対象となる自己負担額です。 この例の場合30,000円+60,000円+24,000円=114,000円が世帯合算額となります。 |
3.自己負担限度額(高額療養費算定基準額)
用語としては「高額療養費算定基準額」のほうが正確ですが、自己負担限度額のほうがわかりやすいのでこの記事では全て自己負担限度額と記載します。
70歳未満の高額療養費の自己負担限度額は以下のようになります。
所得 | 自己負担限度額 | 多数回該当 |
①標準報酬月額 53万円以上 | 150,000円+(療養費用-500,000円)×1% | 83,400円 |
②標準報酬月額 50万円以下 | 80,100円+(療養費用-267,000円)×1% | 44,400円 |
③低所得者 | 35,400円 | 24,600円 |
【用語の解説】
・標準報酬月額
標準報酬月額は健康保険における保険料の額や保険給付の額の計算基礎となるものです。通常は4月~6月に支払われた報酬の平均額を基礎として決定されます(平均額がそのまま標準報酬月額となるわけではありません)
現時点(2014年3月時点)での標準報酬月額等級表では上記の平均額が515,000円~545,000円の人は標準報酬月額530,000円となります。
標準報酬月額53万円以上の人はつまり月給が51万円以上あるということなので、「上位所得者」としてより多くの負担を負い、標準報酬月額50万円以下の人は「一般所得者」としてそれなりの負担を負うということを意味しています。
・多数回該当
過去12ヶ月以内に既に高額療養費が支給されている月数が3ヶ月以上ある場合は、4か月目から「多数回該当」となり、この場合は表の一番右の金額が自己負担限度額となります。
・療養費用
被保険者負担額2割~3割を計算する前の本来の療養費用です。
たとえば3割負担の被保険者の負担額が300,000円の場合、療養費用は1,000,000円となります。
・低所得者
市区町村民税の非課税者等です。所得が少ないので自己負担限度額も少額になります。
【数式の意味】
式内で使われてる数字の関係は次のようになります。
500,000円×30%=150,000円
267,000円×30&=80,100円
つまり療養費のうち上位所得者の場合50万円、一般所得者の場合26.7万円までは必ず3割負担となります。そして、これを超える部分については1%だけ負担する、ということを意味しています。
ここまでを具体例で確認してみましょう。内容は上の事例の続きです。
被保険者Mさんの世帯の自己負担金等合算額は114,000円と算定された。 Mさんは一般所得者とし、医療費は全て3割負担とする。この場合の高額療養費はいくらになるか?ただし多数回該当にはあたらないものとする。 こう書くと算数の問題みたいですね。 まず療養費用は全体の金額なので、114,000円を30%で割り戻します。 114,000円÷30%=380,000円 次に自己負担限度額の数式にあてはめます。Mさんは一般所得者なので2番目です。 80,100円+(380,000円-267,000円)×1%=80,100円+113,000円×1%=81,230円 これが自己負担限度額です。Mさんは81,230円まで負担することになります。 しかし実際にはMさん一家は114,000円払っているので、その差額が高額療養費として支給されます。 114,000円-81,230円=32,770円 これがMさんに対する高額療養費となります。 |
4.支給方法
原則は「現金支給方式」、つまり一度病院等に自己負担額を支払った後、申請により高額療養費を支給してもらうこととされます。
しかし、予め所得区分について保険者の認定を受けている場合、「現物給付方式」、つまり窓口での支払いを自己負担限度額にとどめることにより支給されることも可能です。